「娘・妻・母」
1960年5月21日公開。
豪華俳優陣によるファミリードラマ。
脚本: | 井手俊郎 、 松山善三 |
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監督: | 成瀬巳喜男 |
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出演者:
原節子 、 高峰秀子 、三益愛子 、 森雅之 、上原謙 、 杉村春子 、 宝田明 、 団令子 、 草笛光子 、 小泉博 、 淡路恵子 、 仲代達矢 |
あらすじ:
東京、山の手の代々木上原あたり。
坂西家はその住宅街にある。
一家には、60歳になる母親あき(三益愛子)を中心に、会社では部長の長男勇一郎(森雅之)と妻の和子(高峰秀子)、その子の義郎、それにブドウ酒会社に勤める末娘の春子(団令子)が住んでいる。
また商家に嫁に行った長女の早苗(原節子)が、夫、姑との仲がうまくいかず遊びに来ていた。
早苗はこの里帰り中に事故で夫に死なれ、毎月五千円の生活費を入れて実家に住みつくことになった。
勇一郎は、家を抵当にした金で町工場をやっている和子の叔父に融資し、その利息を生活の足しにしていた。
更に五十万円を申しこまれ、その金の用立てを早苗に頼んだ。
彼女は承諾した。
ある日、早苗、春子に、次男の礼二(宝田明)と妻の美枝(淡路恵子)らは甲府のブドウ園に遊んだ。
案内は醸造技師の黒木(仲代達矢)。
彼は早苗に好意以上のものを感じた。
東京へ戻って、早苗は母の還暦祝の品物を買いに銀座へ出た。
学友の菊に誘われて入ったフルーツパーラーで、彼女の知り合いという五条(上原謙)に紹介された。
身だしなみのいい中年の紳士だった。
還暦祝いの日、黒木から早苗に電話があった。
二人は上野の美術館に行った。
その帰り、黒木は早苗に接吻した。
勇一郎は金を貸した鉄本が行方をくらましたのを知り、青くなった。
坂西家は家族会議を開いた。
母親にも内証で家を抵当に入れた勇一郎は弟妹に責められた。
礼二も春子も分配金が貰えないので、老後の母を誰が面倒をみるかという話にまで進んだ。
早苗はズバズバいう弟妹たちが悲しかった。
彼女はあきに、母を引きとっても結婚したいと申しこんできた五条の許へ再婚する気持を打ちあけた。
早苗は黒木を呼びだし、別れた。
しかしあきは養老院へ入院手続きをしていた。
郵便箱に「緑ケ丘老人ホーム」の封書を見た和子は、それをポケットにしまった。
家族会議の夜に勇一郎に言った「あなたのお母さんだとばかり思っていたから、心の中にわだかまりがあったのよ、赤の他人だと思えばかえってうまくやっていけるんじやないかしら」という言葉を、和子は再びかみしめるのだった。
コメント:
豪華キャストがたくさん出演していて、その俳優たちが演じる登場人物の数だけドラマがあるすばらしい作品。
彼らをまとめ上げた成瀬監督の手腕が光る。
脚本にも無駄がない。
実家の母のもとに集まる子供たち家族。
借金を踏み倒され、実家を手放す危機に。これから誰が母の面倒をみるか、兄弟で揉めることになる。
時代といったらそれまでだが、親の面倒をみようとする子供が少なからずいることにこの時代の救いがある。
どんなエンディングになるかと思ったら、想像もつかない素晴らしいラストだ。
今なら、親を老人ホームに入れて一件落着となるだろうが、この映画の頃はまだ親子の結びつきは深かったのだ。
人生とは何かを考えさせてくれる秀逸な作品になっている。
原節子の母を想う気持ちを語る姿が印象的だ。
高峰秀子の抑えた演技が本作の主題をしっかり感じさせてくれる。
小津映画を思わせるような映画のストーリー。
年老いた母の処遇を巡る話で、「東京物語」を連想させずにおかない。
成瀬監督による「東京物語」といったらよいか。
もっとも最初からお金の話が立て続くあたりは、いかにもこの監督らしいところ。
香典に3千円、うちは五百円でいいよ、家には2500円入れる、私は5000円かしら。
一個80円のショートケーキ、夫の保険金100万円、などなど。
実に所帯じみた話の連続が庶民派の成瀬監督らしい。
出戻りの長女という役どころは原節子にぴったり。
伏し目がちに佇む姿が美しい。
長男の嫁に高峰秀子。
どこにでもあるような普通の家庭の嫁と娘を二大スターの共演で見せる。
なんと贅沢なホームドラマであろう。
母親に三益愛子、次女、草笛光子、三女、団令子と女性陣が目立つ。
タイトルからしても男性陣には存在感がない。
男が皆だらしない。
長男の森雅之はお人好しで借金を抱えてしまうし、次男の宝田明は軽薄で妻の淡路恵子の尻に敷かれている。
次女の夫の小泉博は、母親(杉村春子)にまったく頭が上がらぬ意気地なし、という具合。
妻と娘たちがこの家を仕切っている感じ。
この女の会話劇が切なくも楽しい。
母(三益)の還暦のお祝いという幸せの絶頂から、借金の踏み倒しにより家を手放すことになる急落。
自分に危害が及ぶや醜い本音をつい口に出してしまう家族たち。
皆自分本位に走りだす。
家族とは何かをテーマとした、よくあるホームドラマだ。
だが、落ち着いた演出と名優たちの競演により贅沢な時間を満喫した気分になれる。
「東京物語」同様、この映画でもキーになるのは原節子。
その原節子も引退間近の40歳であった。
以前より老けてはいるが、いつもの原節子の熱演が光る。
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