ルクセンブルクが宇宙採掘への一歩を踏み出したのは2016年の初め、同国の経済省が宇宙資源構想「Space Resources initiative」を発表したときである。公式文書によると、この計画の鍵は「小惑星などの地球近傍天体から採掘された鉱物資源の将来的な所有権を確定するため、法律と規制の枠組みを整備すること」だという。同年11月には、企業に宇宙から取得した資源の所有を許可する法律の草案が作成された。
ルクセンブルクはまた、研究開発助成金や株式購入といったかたちで、少なくとも2億ユーロの投資を行うことも宣言している。エティエンヌ・シュナイダー副首相はさらに、企業が研究開発に投資した金を、国が45パーセントを上限に払い戻すことも可能だと述べた。来たれ企業よ、というわけだ。
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アメリカにも真似できない徹底ぶり
そして呼びかけに応じる者が現れた。米国拠点の大手採掘業者2社、Planetary ResourcesとDeep Space Industriesが、ルクセンブルクに法務部を設置、あるいは近々設置することを決めた。「ルクセンブルクは間違いなく、非常に先進的な取り組みを行っています」と語るのはPlanetary ResourcesのCEO、クリス・レウィッキだ。彼の会社にとってはよいことづくめである。国家が株を買い、助成金を出してくれるのだから。
ルクセンブルクはまた、欧州宇宙機関と共にDeep Space Industriesによる「Prospector-X」ミッションにも協力してきた。これは、超小型宇宙船を利用して小惑星向けの技術の一部をテストするミッションである。
投資によって、ルクセンブルクはなんの障害もなく宇宙産業への賭け金を積み上げられる。そしてこれは米国には不可能なやり方である。先述したどちらの企業も、NASAから研究開発支援を受ける契約を取り交わしている。そしてルクセンブルクは同じ支援を、欧州宇宙機関を通じて提供できるのだとDeep Space IndustriesのCOO、ミーガン・クローフォードは語る。「ルクセンブルクはさらに、ローンや株式など、あらゆる金融メカニズムを通じて直接投資をしてくれます。これは、わたしたちが見てきた米国政府のやり方とはまったく違います」
資金面だけではない。「小惑星採掘がただ実行可能なだけではなく、促進されるような法環境が必要なのです」とクローフォードは言う。それゆえルクセンブルクは11月、小惑星採掘のための法的枠組みの草案を欧州で初めて作成し、それぞれの組織が宇宙の岩から採取した資源を所有する権利が保障されるよう準備をしているのだ。米国にも似た法律があるものの、適用の対象となるのは米国の市民権をもっている人や企業だけだ。一方ルクセンブルクの法案では、事業所の住所が国内にありさえすればよく、つまり誰にでも適用可能なのである(もちろんあなたもだ)。
ライヴァルはあとからやってくる
資金援助、法整備、そして各企業からの反応からわかるのは、ルクセンブルクが野心的な目標を抱いているということ、そしてそれを達成する方法ももっているということだ。「暗中模索しているところです」と語るのは、ジョージ・ワシントン大学で宇宙・防衛関連の技術革新の動態を研究するゾーイ・シェインファーバーだ。「ルクセンブルクは、数多くの才能豊かな人々を惹きつけるシリコンヴァレーの宇宙採掘版、あるいは税制上の利点で数多くの企業を惹きつけるデラウェア州の宇宙産業版になろうとしているのです」。だが、自国を宇宙開発のハブにつくりかえることは、容易でもなければ確実でもない。実際に何が起こるのかは誰にもわからない。「映画スターへの階段をのぼろうとしているような感じですね」とシェインファーバーは言う。